1989年、『月光ゲーム』でデビュー。主な著書に『マジックミラー』『46番目の密室』『ペルシャ猫の謎』『マレー鉄道の謎』『乱鴉の島』『女王国の城』など多数の推理作家、有栖川有栖さんにインタビューしました。
「猫」という文字も、言葉も、音も、全部好き。
「ねこ」の「ね」の字は、どこから見ても、猫がしっぽを巻いて、寝てる姿ですよね。
子どものころは猫にあまり興味がなく、自分が飼うとは思ってなかったんです。それが結婚1年目の25歳の時、大阪の下町の長屋に住んでいたのですが、雨の降る夕方、小さな子猫が鳴いていたので、一晩だけ雨宿りをさせてやろうと家に入れてあげました。猫って、抱くとこんなに柔らかいのかと、初めてしげしげと見ました。こんなチビなのに好きなように生きていて、いい顔をしている。凛とした横顔を見ると、猫の瞳に理知の光さえ感じる。見れば見るほど、その子の感情が分かったり、こちらの気持ちが伝わるような気がして、一晩で猫にほれました(笑)。
そのころは共働きだったので、猫は、昼、外で遊ぶ。夕方、わたしたちが仕事から帰ってくると、猫も帰ってくる。それで、ケガをして死んだり、病気をもらったり、どこかへ行ってしまったりで、拾った猫を1年と飼ったことがなかった。ところがこの子「瓜太郎」を拾った次の年、マンションの上層階に引っ越すことになり、それから部屋の中で飼うようになりました。そして、引っ越しをしてすぐ、マンションの下でうろうろしている子猫がいたので拾いました。それが「小次郎」です。その後7年ほどは、外で猫に出会うこともなく暮らしていました。
ところが阪神大震災の年の3月、マンションの自転車置き場で生後半年ほどの子猫を見かけました。でも、3匹目はちょっとためらいがありました。3匹になると、飼い主のタガがはずれ、4匹、5匹と猫屋敷への道を歩むことになりかねない(笑)。飼うつもりはなかったけど、嫁さんも猫好きなので、「今、下に猫がいたわ」と言うと、「あ、そう」と言い、翌日、「この猫?」と連れてきた(笑)。
その猫はメスでしたが、すごく攻撃的だし、先住のオス猫2匹と三角関係になっても困る(笑)。それでごはんをあげてから、また下の植え込みに置いて、エレベータで上がっていくと、下から猫の鳴き声が・・・。これは放っておけないと、上に着いてすぐ〈下がる〉のボタンを押した(笑)。それが「桃」です。
桃は大震災もひとりで経験しているし、野良が長かったから、どんなに行儀が悪くても構わないと思っていました。でも育ちが悪いというのは、行儀が悪いのとは違いますね。「わたしは後から来た」という遠慮があるのか、他の猫がごはんを食べていると、食べずに待っている。先住猫たちは容赦なく甘えるのに、「わたし、ここに置いてもらえるだけで十分」という感じで、甘えない。かわいがられたことがないと、「甘える」のを知らないんです。それが不憫で「お前のこと、かわいく思っているよ」と言い続けていたら、だんだん甘えることを学習してくれました。
とにかく、猫を飼い始めたころは、次々に死んだり、いなくなったりで、その後の喪失感って大きかったです。その子たちの分も、今の猫たちが一生懸命、長生きしてくれていて、ありがたいですね。
(初出:「よみうりペット」2006年3月20日発行号)
有栖川有栖さん (推理作家)
1959年、大阪市生まれ。11歳から推理小説の虜となり、同志社大学在学中、推理小説研究会で創作活動を行う。卒業後、書店勤務のかたわら、執筆に没頭。89年、『月光ゲーム』でデビューして専業作家となる。主な著書に『マジックミラー』『46番目の密室』『ロシア紅茶の謎』『ペルシャ猫の謎』『幽霊刑事』『マレー鉄道の謎』(以上、講談社)『朱色の研究』(以上、角川書店)『乱鴉の島』(新潮社)、『女王国の城』(東京創元社)など多数。ほかに『作家の犯行現場』(新潮文庫)『有栖川有栖の鉄道ミステリー旅』(山と渓谷社)などのエッセイ集も多い。






